以前よりこのコラムでアトピー性皮膚炎(AD)や尋常性乾癬(PSO)の治療薬について書いてまいりました。
今回この両疾患おける外用薬の選択肢が、新たに増えたお知らせです。
その外用薬はブイタマークリーム(一般名タピナロフクリーム)です。
1日1回の外用で、ある程度の効果が得られる、まったく新しい外用剤です。
この外用薬の作用機序は、芳香族炭化水素受容体(AhR)を活性化することで、さまざまな遺伝子発現を調節し、それにより炎症性サイトカインを低下させ、抗酸化分子の発現を誘導して、皮膚の炎症を抑制するとともに、皮膚のバリア機能を改善します。
※AhRとは
・芳香族炭化水素受容体(AhR)は、特定の物質に結合する事で、(例えば食物や微生物、汚染物質、代謝産物等)様々な化合物によって活性化されます。
それにより、化学物質に対する防御、エネルギー代謝、細胞の発生と分化等、幅広い生理機能に関与し、さらには、免疫系において免疫応答を調節する重要な役割を果たしています。
今までのAD治療薬は、基本1日2回のものが多かったと思いますが、このクリームは1日1回塗る外用薬で、軟膏基剤とは違いベタベタ感が少ないクリーム外用剤です。忙しくて1日2回塗れないとお困りの患者様には、試していただきたい外用剤です。
PSOではステロイド・ビタミンD3の外用薬を中心に治療を行ってきましたが、これらの外用薬はそれなりの効果を出してきました。しかしながら、副作用の問題で長い間使いにくいという問題がありました。
それらの欠点を解消してくれる薬剤として、今回発売になった非ステロイド外用薬であるブイタマークリームは新しい選択肢となり得ると考えています。
ブイタマークリームの塗り方のポイントは、1日1回適量を患部に塗ります。すり込まず、優しくのばすように塗りましょう。 皮膚がテカる程度が、薬の効果を発揮できる塗り方です。
副作用は以下の通りです。
・毛包炎(吹き出物)
・接触皮膚炎(かぶれ)
・ざ瘡(ニキビ)
上記以外にも、AD・PSOの悪化、刺激感、頭痛等が報告されています。
是非使ってみたい患者様、気になる症状がある方は、我々皮膚科医ご相談ください。
秋になって、朝夕の気温差が出てまいりますと、目の痒み、いわゆる結膜炎がでてくる方も多いかと思います。
かく言う私も、その一人です。
この様な症状には、抗アレルギー剤配合の点眼薬を1日数回さしたりしますが、日常生活の中で決まった時間に、なかなか点眼ができないのが現状かと思います。
その状況を改善してくれる新しい薬剤が、処方可能となりました。
世界初、目の痒みに1日1回のクリーム剤、アレジオン眼瞼クリーム0.5%が登場いたしました。
その特徴ですが、1日1回(眠前がおすすめかと)、眼瞼皮膚に直接触れながら塗布する、クリームタイプのアレルギー性結膜炎治療薬です。
本剤を眼瞼皮膚に塗布した時、有効成分であるエピナスチンは眼瞼皮膚を通過して眼球・眼瞼結膜に分布し、塗布後24時間後も薬剤は患部に留まるとのことです。
スギ花粉抗原を用いた結膜抗原誘発試験で、アレルギー性結膜炎の平均掻痒スコア及び充血スコアを観察したとこ、プラセボ眼瞼クリーム剤に比べて有意に抑制したと実証されました。
また長期投与試験(8週間)において、自覚症状及び他覚所見は、投与開始時に比べて有意なスコア減少を認めました。
気になる副作用は、試験においては、124例中2例(1.6%)に認められ、その内容は、眼瞼の痒み2例(1.6%)及び眼瞼の赤み1例(0.8%)です。
この副作用は、投与中止後に無治療で回復したとのことです。
結論としては、重篤な有害事象は認められなかったと言うことであります。
アトピー性皮膚炎に合併した結膜炎、アトピー性皮膚炎において、劇的な治療効果をあげているデュピルマブの副作用である結膜炎に、強い味方が登場したと思っております。
気になる方は、一度近くの医療機関にご相談ください。
以前脇汗(原発性腋下多汗症)でお悩みの方に、塗り薬があることをご紹介しましたが、この度、手のひらである手掌の多汗症に効くお薬が発売になりました。
その名はアポハイドローションであります。
この外用剤は、1日1回就寝前に、手のひらに直接塗布して使用する「日本初の原発性手掌多汗症治療剤」です。
試験でテスト用紙が汗で湿って、最悪の場合、用紙がやぶれてしまう人、手汗がひどく人と握手するのに抵抗がある人、球技などのスポーツ大会で手汗により滑ってしまう人等は、適応かと思います。
しかしながら、以下の人には禁忌となります。
- 閉塞隅角緑内障の方(抗コリン作用により眼圧が上昇して、症状が悪化する可能性あり)
- 下部尿路閉塞疾患(前立腺肥大等)による排尿障害のある方(抗コリン作用により排尿時の膀胱収縮が抑制され、症状が悪化するおそれがあり)
- 重篤な心疾患のある方(抗コリン作用により頻脈、心悸亢進をお越し心臓の仕事量が増加するおそれがある)
- 腸閉塞又は麻痺性イレウスのある方(抗コリン作用により胃腸の平滑筋の収縮及び運動が抑制され、症状が悪化するおそれがある)
- 重症筋無力症の方(抗コリン作用により筋緊張の低下がみられ症状が悪化するおそれがある)
- 本剤の成分に対して過敏症の既往のある方
上記に該当するものがなければ、我々医師からの処方は可能と考えます。
使用方法は以下の通りです。
- お薬を塗る前に、手のひらの水分等をよくふき取ります。
- 手のひらにお薬を適量出してください。(一日分の目安は5プッシュです)
- 左右の手のひらに均等に塗り広げます。
- お薬を塗ったまま、就寝します。
- 起床後は、手を流水でよく洗います。
薬の効果ですが、国内第Ⅲ試験(12歳以上の日本人患者)において、
投与4週後に発汗量が50%以上改善した方は、プラセボ群と比較して優位に高く、アポハイドローションの優越性が検証されました。
手汗で悩んでいる方、一度我々皮膚科医にご相談下さい。
近年リウマチなどの自己免疫に関わる疾患に対して、投与されてきた生物学的製剤や、JAK阻害剤ですが、皮膚科領域では主に、乾癬やアトピー性皮膚炎に使用されてきました。最近では円形脱毛症にも、保険適応が拡大された薬があります。
その薬の名前はオルミエントです。
円形脱毛症は主にストレスなどで起こると言われており、直接生死に関わる病気ではありませんが、患者さん本人にとっては、「これ以上髪の毛が抜けるのでは?」「髪の毛が再び生えてくるか不安」など悩みは尽きないと思います。
円形脱毛症が発症するメカニズムですが、ストレスや基礎疾患などなんらかの誘因により、毛を作る工場である毛根へ、免疫細胞(サイトカイン)が攻撃をしてしまいます。その攻撃により、毛の成長が阻害されて、毛が抜けてしまいます。つまり、円形脱毛症は、アトピー性皮膚炎などと同様の自己免疫疾患に位置づけられます。
円形脱毛症の治療には、大きく分けて3種類があります。
- 外用療法 抗炎症作用のあるステロイド外用剤を塗る治療や、血行促進作用のある外用剤を塗る治療です。
特殊な外用療法として、かぶれを起こす物質を塗る治療法もあります。
- 内服療法 抗アレルギー作用のある薬を内服する治療法、抗炎症作用のあるステロイド内服薬を内服する治療法です。
- 注射療法 ステロイド注射薬を直接患部に注射する治療法、または短期間に大量のステロイド注射薬を点滴する治療法です。
他にイボの治療に使う液体窒素を患部にあてる治療法や、紫外線照療法などもあります。
今回、ご紹介するJAK阻害剤であるオルミエントは、内服治療法に分類されます。
オルミエントは、臨床試験において、薬の効果と安全性が確認された内服薬です。我が国では、すでに既存治薬で効果不十分なアトピー性皮膚炎や、関節リウマチの治療薬として使われております。
オルミエントは、JAK(ジャック)阻害薬と呼ばれる内服薬に分類され、円形脱毛症の発症に関与するサイトカインの働きを抑えることで、免疫細胞による毛根への攻撃を抑えます。
しかし誰にでも投与できる内服薬ではありません。以下の方は服用禁忌です。
- オルミエントを過去に服用してアレルギー反応を起した方
- 重篤な感染症にかかっている方
- 結核の方
- 重篤な肝機能障害の方
- 妊娠、またはその可能性のある方
- 血液中の好中球、リンパ球、ヘモグロビン値に異常がある方
また、以下の方は服用に注意が必要な方です。
- ヘルペスウイルス感染が疑われる方
- B型肝炎ウイルス感染が疑われる方
- 脂質異常症の疑いのある方
- 生ワクチンを接種予定の方
- 高齢の方
オルミエント服用開始前には、問診や血液検査、レントゲン検査にて上記に該当しないか確認を致します。
投薬中も定期的に血液検査やレントゲン検査を行ってまいります。
治療開始前に患者さんに知っておいていただきたい事は、自己負担額の問題かと思います。
例として、オルミエント4mgを4週間処方した場合、3割負担の方で4万4270円、1割負担の方で1万4760円かかります。
年齢や所得区分によっては、高額療養費制度の対象になります。
なかなかクリニックレベルではハードルの高い薬ですが、脱毛症でお悩みの方は、我々皮膚科医にご相談ください。
ここ最近アトピー性皮膚炎の治療の選択肢として、デュピクセントやJKA阻害薬を紹介してきましたが、今回はヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクロナール抗体であるミチーガ(ネモリズマブ)注射剤を紹介させて頂きます。
アトピー性皮膚炎(AD)は、増悪軽快を繰り返す?痒のある湿疹を主病変とする慢性皮膚疾患です。?痒による?破は、皮膚症状を悪化させ、更に痒みを引き起こすという悪循環を繰り返します。
抹消性の痒みは、痒み刺激や?破により放出された物質が抹消神経を刺激し、その興奮が脊髄を介して脳に伝わることで、「かゆみ」として認識されます。
この痒みを引き起こす物質の一つに、IL-31というものがあります。
今回ご紹介するミチーガ(ネモリズマブ)は、このIL-31の受容体に作用する、ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクロナール抗体であります。
つまり、IL-31はAD患者の皮膚の神経終末に発現しているIL‐31受容体に結合して、痒みのシグナルを中枢に伝達します。ミチーガの有効成分であるネモリズマブは、ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aを標的とするヒト化モノクロナール抗体であり、IL-31と競合的にIL-31受容体Aに結合することで、ADにおける?痒をおさえると考えられています。
またIL-31は、痒みだけでなく皮膚のバリア機能低下にも関わっていると考えられています。
ミチーガをどのような人に、投与すべきか?
ステロイドをはじめとする抗炎症外用薬や、内服薬である抗アレルギー薬を一定期間用いても、痒みを十分に効果が得られない人です。
どこに注射するのか?
腹部・大腿部・上腕部外側の正常な皮膚(毎回部位は映えること)。
投与方法は?
通常、成人及び13歳以上の小児にネモリマブとして1回60mgを4週間の間隔で、クリニックの外来にて皮下注射します。
この注射薬で痒みが止まっても、ADの治療薬である抗炎症外用剤・保湿剤等は継続するのが望ましいです。
費用は高い?
現在、当クリニックでは、難治のAD患者さんに対してデュピクセントという自己注射製剤を行っております。
この注射は2週間に1回投与して頂いておりますが、デュピクセントを2回打つのと、ミチーガ(ネモリズマブ)を1回打つのがほぼ同額です。
自己注射が苦手と言う人は、一度検討してみても良いかと思います。