いよいよ梅雨も明け、夏本番(子供達にとってはうれしい夏休み!)となりました。
今回は、昨年ニュースになりました、デング熱について話をしたいと思います。
デング熱(dengue fever)は、熱帯・亜熱帯とくに東南アジアの流行病言われていましたが、昨年、東京の代々木公園を中心に69年ぶりに国内での感染例が報告されました。その後、皆さんご承知の様に、全国各地で発症が確認され、社会問題に発展いたしました。
デング熱とは、教科書的にはネッタイシマカ(日本ではヒトスジシマカ)にさされて2~15日で突然の発熱と共に全身の倦怠感、関節の痛みとリンパ節の腫脹、胃腸障害、目の奥が痛くなったり、まぶしさを感じたりします。
発疹に関しては、発症初期は、びまん性に赤くなったり・小丘疹(皮膚表面より限局性に類隆起)が見られることもあり、後半には、麻疹(はしか)様や溶連菌感染時に見られる皮疹を呈することもあるようです。ですから、医師の間でも、麻疹や溶連菌感染症との区別に難渋いたします。これらの皮疹は、デングウイルスによるアレルギー反応と考えられています。
デングウイルスには4つの血清型(1型・2型・3型・4型)があります。昨年代々木公園などで確認されたのは1型のようです。これは、アジアで流行しているものと同じでした。小児では発熱に加え、出血傾向や肝障害を合併するデング出血熱と呼ばれる状態になることもあります。このデング出血熱の重症化は、2度目の感染が異なる血清型であったり、あるいはデング熱に対する免疫を持った母体から、出生した乳児の初感染の場合などで起こりやすいと報告されています。つまり、その感染したウイルスの血清型に対しては終生免疫を獲得しますが、他の血清型ではデング熱を発症します。
現時点で、デング熱に対して得意的な治療法はありません。個々の症状に対して対症療法を行なうのみです。解熱剤を使う場合、アスピリンを服用すると、デング熱の重症化に拍車をかけることになりますので、自己判断で解熱剤を内服せず、医療機関を受診のうえ、医師の処方したアセトアミノフエンを内服しましょう。アセトアミノフエンは副作用の誘導が少ないとされています。ワクチンは、年内の実用化をめざしているようです。
予防法ですが、我々のできることは、蚊に刺されないようにするしかないようです。野外で作業をすると木などは、肌を露出しない長袖のシャツや長ズボンの着用、虫よけスプレーや蚊取り線香などを使うことを心がけましょう。
また、蚊は色の濃いものに近づくようです、白や薄い色の服は更に効果的と思われます。
以上の事をふまえて、他の害虫にも気をつけて、楽しい夏を過ごしましよう。
コラム
汗とアトピー性皮膚炎の関係
季節は夏に向かっており、徐々に汗ばむ季節となってまいりました。
今回は、その汗についてのお話です。
汗は、人間にとって大切な役割を担っています。
- 体温調整 体の熱を発散し、体温を下げます。
- 免疫調整 汗に含まれる物質が、細菌などから皮膚を守ります。
- 保湿 皮膚の水分量を保持し、うるおいを与えます。
人間が生きていく上で必要な汗ですが、以前は、アトピー性皮膚炎(以下AD)を悪化させる原因の一つと考えられてきました。ところが最近の新たな研究で、汗を十分にかけていない事が、ADを悪化させている原因の一つと言われています。
どういう事かといいますと、AD患者さんでは、発汗量が少なく、発汗するまでに時間がかかるといった特徴が見られるようです。またAD患者さんが発汗により痒みが起こるという不安から、自然と汗をかく機会を減らす、つまり、発汗量が少ない原因にもなっていると考えます。
このように、AD患者さんでは発汗量が少ないので、“汗“本来の働きが十分に発揮されることがないので、AD症状の悪化が起こると考えます。
つまり、汗をかくことで、皮膚にうるおいがもどり、汗に含まれる物質で皮膚を細胞から守り、皮膚の温度を下げ、皮膚の炎症の悪化を予防するのです。ただ汗をかいた時に、かゆみを感じるのも事実です。
では、いかに汗と上手に付き合うかですが、汗をかいたら、おしぼりで拭き取るか、シャワーや流水で洗い流すことを心がけましょう。
どうしても洗い流す事ができない状況なら、汗で濡れた衣装は、着替えるなどの対策をしましょう。汗を洗い流した後は、保湿剤の外用は忘れないようにしましょう。
特に、AD患者さんでは、汗を洗い流して終わるのではなく、医師から処方された、ステロイド外用薬、保湿剤の外用はしっかり行いましょう。
汗をかくためには、毎日40℃程度のお風呂に入るように、この温度は、皮膚のバリア機能を回復させると言われています。石鹸を使う時は、よく泡だて、過度に擦らず、十分に洗い流しましょう。
また、運動は激しいものを急に行うのではなく、軽いものからはじめ、休息をとり水分補給をしっかりして、熱中症には注意しましょう。
まとめ
以前は、アトピー性皮膚炎にとって、汗は、悪いものという印象がありました。しかし、汗の働きを考えると、人の生活において必要なものであります。アトピー性皮膚炎患者においては、治療をしっかりと行い、そのうえで、汗をかける日常生活をおくりましょう。
アトピー性皮膚炎の治療等でわからない事がある時は、われわれ皮膚科医に相談して下さい。
皮膚からもアレルギー
季節ははるになり、お花見のシーズンになっていますが、同時にアレルギーの季節になったと言っても過言ではないでしょう。花粉症持ちの人には辛い季節です。
花粉症と言えば、鼻におこるアレルギー性鼻炎を思い浮かべる人が多いかと思いますが、他の症状として、目のかゆみ、喉のイガイガした感じや皮膚の露出した所のかゆみ(顔のかゆみ)などがあります。これらの原因(アレルゲン)として有名なのがスギ花粉です。しかし、実際のところスギ以外の多くの花粉やダニ、カビ、ペットなどのアレルゲンでもこれらの症状は起こっている可能性があります。もしかしたら症状を放置することで、季節に関係ない通年性アレルギーに移行している可能性があるかと思います。もし、花粉症かと思われる症状が出てきたら、なるべく早く病院を受診することをお勧めします。
ではどうしてアレルギー反応が起こるのでしょう。最近の皮膚の研究では、口や鼻からのアレルゲンの浸入だけでなく、皮膚もアレルギー発症のルートであることがわかってきました。皮膚は、単に異物から体を守る組織というイメージがありますが、アレルゲンが皮膚を介して体内に侵入し、アレルギー反応を引き起こすことがあるのです。これを、経皮感作といいます。
例えば、海外などでは、ピーナッツオイル入りのの保湿クリームを使用した子供や、家庭内に落ちているピーナッツのかけらなどが原因で、ピーナッツを食したことがない子供にピーナッツアレルギーが発症したという報告があります。日本では、小麦粉成分を含んだ洗顔石鹸を使用した人達に、突然小麦アレルギーがおこってしまう事件がありました。これも経皮感作によるものと考えられております。
では、なぜ経皮感作がおこるのでしょう?皮膚の最外層には、外質層があり、皮膚膜とともに色々な外敵から、身を守るバリアとして働いています。しかし、湿疹などの皮膚に異常が起こると、バリア機能がおかしくなり、外からの刺激に対して非常に過敏なってしまいます。つまり、様々なアレルギー物質が体内に侵入しやすくなるということです。このような事が、日々積み重なり経皮感作が起こると考えられています。
近年我々医師の間では、アレルギーマーチという言葉が使われております。これは、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎や喘息といった異なる症状が成長にともなって出現する状態です。この原因として、上記の皮膚のバリア機能障害が注目されております。経皮感作を起こさない為には、以下のことに注意しましょう。
- 皮膚のバリア機能を保持する為に・・・
- 石鹸の使い過ぎに注意しましょう。
- ナイロンタオルで強く擦るのはやめましょう。
- 乾燥肌の人は、入浴後に保湿剤を塗りましょう。
- 布団、ソフアー、クッション、むいぐるみなどに付着しているアレルギー物質などは、マメに掃除をしましょう。
- 乳児期に気おつけることとしては・・・
子供は、大人よりも保湿能力が低いので、外部の刺激に対して非常に敏感です。よだれや食べ物が、口の周りについたまま放置すると、そこから経皮感作が起こる可能性があるので、乳幼児の口の周りは、きれいにすることが大切です。
乾癬(かんせん)について
冬将軍到来で、毎日寒い日々がつづいておりますが、みなさまは風邪などひかれていないでしょうか?今回は、乾癬(かんせん)について勉強したいと思います。
乾癬とは、「皮膚の炎症」と「表皮の角化異常」の2つの病態があります。つまり、皮膚が赤く盛り上がり、その表面に銀白色のかさぶた(鱗屑)が厚く付着して、やがてそれがフケのようにポロポロと剥がれ落ちる(落屑)という状態です。かゆみに関しては、個人差があり、ほとんどない人もいれば、かなりのかゆみを訴える方もおられます。病気を放置してしまうと、皮疹が拡散融合して大きくなってしまいます。また、爪の変形が起こることもしばしば見られます。 乾癬患者さんの皮膚の正常部分を、掻いたり傷つけたりすると、その部分に乾癬が出現することがあります。これを皮膚科の専門用語で「ケブネル現象」と言います。 乾癬は、その症状の違いから5つの種類があると言われています。
- 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん):もっとも多く見られるタイプで、上記の病状が頭、肘、膝を中心に全身に散見されます。
- 膿胞性乾癬(のうほうせいかんせん):全身の皮膚が赤くなり、その中に「うみ(膿疱)」を持った皮疹が出現し、発熱や倦怠感を合併します。放置すると全身のむくみが現れ、入院での治療が必要になってしまいます。
- 関節症性乾癬((かんせつしょうせいかんせい):皮膚症状に加え、関節リュウマチのように関節が腫れたり、痛んだりします。重症化すると、関節な変形がおこり、日常生活に支障が出てきます。
- 滴状乾癬(てきじょうかんせん):風邪などにより扁桃腺炎をおこして、それが悪化した時に、全身に水滴様の皮疹が全身に出現します。
- 乾癬性紅皮症(かんせんせいこうひしょう):尋常性乾癬のコントロール不良により、全身のほとんどが赤くなる状態です。皮膚の機能障害により体温調節ができなくなり、発熱や倦怠憾を生じます。症状によっては、入院となることもあります。
乾癬の原因は、まだよくわかっていないのが現状です。遺伝的要因にストレス、風邪、喫煙、飲酒、食生活などの外的要因、それに高脂血症、肥満などの内的要因が加わって発病すると考えられています。また、最近の研究で、上記の問題だけでなく、免疫系にも異常が生じて炎症がおきているのがわかってきました。つまり、本来なら細菌やウイルスに対する防御システムが、何らかの要因で正しく機能しなくなり、自分の細胞を攻撃し、炎症を引き起こすようになったと思われます。
乾癬の治療法には大きく分けて、4つの方法があります。外用療法、内服療法、光線療法、生物学的製剤です。(クリニックレベルでの治療としては、外用療法内服療法がメインになってくると思います。) 外用療法は乾癬治療の基本と考えます。主にビタミンD3外用薬、ステロイド外用薬を用います。
ビタミンD3外用薬:表皮の新陳代謝の異常を抑え、正常な皮膚に導く薬です。効果がでるまでに時間がかかるため、根気よく外用を続けることが大切です。ステロイド外用薬:炎症(皮膚の赤み)を起こす細胞の働きを抑える薬です。速効性があり、病状に応じて薬の強さを使い分けていきます。ただし、医師の指示に従わず使用していると、塗布部位の毛細血管拡張や、皮膚が薄くなったりすることがあります。
※昨年の秋により日本でも、ビタミンD3外用薬とステロイド外用剤の合剤が処方可能となりました。当クリニックでも、たくさんの乾癬患者さんに処方したところ、かなりの効果を実感しております。
内服薬は、外用薬のみではコントロールが難しい時に、用いることが多いですが、単独で用いることもあります。
レチノイド(エトレチナート):ビタミンA誘導体で、皮膚の過剰な増殖を抑える効果があります。妊娠中の胎児に影響をあたえるので、服用中はもちろん服用中止も、男性は6ヶ月、女性は2年の妊娠をしてもらいます。
シクロスポリン:乾癬の悪化因子の一つである、過剰な免疫反応に作用致します。副作用として、血圧上昇、多毛、腎機能障害等がありますので、定期的な血圧測定、血液検査が必要です。
光線(紫外線)療法は、光源ライトを用いて、症状のあるところを中心に紫外線を照射して過剰な免疫反応を抑える治療です。紫外線にはいくつかの種類があり、乾癬の治療では長波長紫外線(UVA)と中波長紫外線(UVB)が用いられます。まれに日焼け色素沈着があります。
生物学的製剤は、大学病院や市民病院などの大きな施設で受ける治療と言えるでしょう。免疫に関わる物質の働きを弱め、乾癬の症状を抑える薬です。現在、皮下注射と点滴の2種類があります。これまでの治療で効果の得られない患者さんが対象になります。下記の患者さんには、投与ができないことがあります。
- 重い感染症のある方
- 結核や肝炎で治療している方
- 過去に生物学的製剤の成分でアレルギーを起こしている方
この治療を行うと免疫が抑えられるため、感染症にかかりやすくなります、主な副作用として、喉の痛みや咳、発熱などの風邪症状、発疹や体のかゆみなどのアレルギー様症状、体のだるさです。
乾癬は増悪軽快を繰り返す疾患です。他人に感染する心配は全くありませんが、日常生活に支障をきたすことがあります。それだけに、乾癬治療の目標は、患者さん一人ひとりの症状や、ライフスタイルの合ったと療法を選択することが重要と考えます。
睫毛貧毛症の治療が始まりました
2014年9月に睫毛貧毛症(しょうもうひんもうしょう)の治療薬であるグラッシュビスタ外用薬剤が販売になりました。
この薬は、上まつ毛の長さ、太さ、濃さを改善するお薬です(毛包の存在しない場合、効果はほとんどありません)。睫毛貧毛症とは、“まつ毛が不十分である又は物足りない”ことを特徴とする疾患です。その原因は、加齢などによる特発性や薬剤誘発性の脱毛症などが考えられます。
日本におけるグラッシュビスタ外用液剤の臨床試験では、特発生睫毛貧毛症および化学療法等における睫毛貧毛症の成人患者に、グラッシュビスタを4ヶ月間使用したところ、それぞれの患者において、評価スケルーで1段階以上の改善が77.3%、および88.9%の割合で認められました。 グラッシュビスタ外用液の有効成分はビマトプロストで、1ml中に0.3mgが含有されているトータル5ml(70日分)の無色透明の液体です。
使い方は、化粧を落として片目ごとに、1日に1回夜に1滴を、添付されている専用ブラシ(140本添付)に滴下して上まつ毛の生え際に塗布します。その時、使用したブラシは破棄し、片目ごとに新しいブラシを使用して下さい。 使用中の注意点としては、塗布時、薬液が上まつ毛以外についた場合は、ティッシュなど吸収性のよい素材で、すぐに拭き取り、洗い流して下さい。 コンタクトレンズを使用している方は、コンタクトレンズを外してから塗布し、15分以上経過してからレンズを装着して下さい。
また、1日に2回以上及び1回に2滴以上塗布したりしてはいけません。(頻繁に塗布しても効果は同じです。)また、妊婦やその可能性がある人、授乳中の人は使用を避けて下さい。 副作用は、メラニン増加によるまぶたの黒ずみ、目の周りが多毛になったりする場合もあります。 これらは、使用中止により元に戻る可能性があります。これらの副作用を防ぐためにも、塗布後は目の周りについた薬をよく拭くか洗顔をするようにして下さい。
他に大きな副作用として、黒目の部分が濃くなる紅彩色素過剰、まぶたがくぼむ眼瞼溝深化があります。このむ眼瞼溝深化に関しては、日本人を対象とした臨床試験では、今のところ報告はないようです。このような症状が出現した場合、ただちに医師または薬剤師に相談してください。 詳しくは、等クリニック窓口または診察室でお訪ねください。