体質で汗が多いという方はおられますが、汗で人目が気になるなど、日常生活で困ることがある場合は「多汗症」という病気の可能性があります。多汗症に悩む人は、思春期から中年世代までの社会的活動が盛んな年代に多いと言われています。男女の比率の差はほとんどありません。
なかでもワキの多汗症を「腋窩多汗症(えきかたかんしょう)」と言います。ワキの下は汗腺が多いうえに、精神的な刺激と、気候や運動による温熱刺激の両方で発汗が促進されるため、汗を多くかきやすい部位なのです。
特別な要因がないのにワキに多量の汗をかく病気を原発性腋窩多汗症といいます。このような症状のある人は、日本人で5.8%と推定されています。原発性腋窩多汗症の診断基準は下記に示す通りです。(ほかの病気や薬による続発生ものは除外します)
- 原因不明の過剰なワキ汗が半年以上前からつづいている
- さらに、以下の6項目のうち、2項目以上に当てはまる
□ 両ワキで同じくらい多くの汗をかく。
□ ワキの汗が多いため、日常生活に支障が生じる
□ 週に一回以上、ワキに多くの汗をかくことがある
□ このような症状は25歳より前にはじまった
□ 同じ様な症状の家族・親戚がいる
□ 眠っているときはワキの汗がひどくない
重度の腋窩多汗症は、日常生活に支障をきたす場合がありますので、心当たりのある人は、皮膚科を受診して下さい。症状によっては健康保険で治療を受けられることがあります。
原発性腋窩多汗症の治療法には、以下のものがありどの治療法にするかは、患者さんの病状に応じて決定いたします。
塗り薬
塩化アルミニウムなどを有効成分とする薬を、毎日塗りつづけることで、徐々に効果が現れます。持続期間が短く、反復して使用します。
注射(ポツリヌス療法)
交感神経から伝達される汗を出す信号を、注射薬でブロックして、過剰な発汗を抑える治療法です。ボツリヌス菌がつくる天然のタンパク質を有効成分とする薬を、ワキに注射します。1回の注射で効果は4~9ヶ月持続するので、年に1~2回程度の治療で汗を抑えると言われています。症状によっては、健康保険が適用されます。
飲み薬
抗コリン薬や漢方薬があります。塗り薬や注射薬とは異なり、体の広い範囲に効果を及ぼすことが特徴です。専門家によるガイドラインでは、塗り薬・イオントフォレーシス(発汗部位を水道水に浸し弱い電流を流して、発汗を抑える治療)・注射薬で効果がない場合や、これらの治療がおこなえない時などに試みてよい治療と位置づけられています。
手術
神経を切断する手術などがあり、種類によっては健康保険が適用されます。多汗症の症状が重く、塗り薬・イオントフォレーシス・注射・飲み薬で効果が見られない時に適応となる場合があります。
その他
神経ブロック、レーザー療法、心理療法などがあります。
以上で何かしら気になることがある人は、一度皮膚科医にご相談下さい。
気候も暖かくなり、また今年も桜の季節になりました。みなさまの皮膚の状態はいかがでしょうか?今回は、暖かくなると増える、虫や植物による皮膚炎トラブルのお話です。
皮膚炎を引き起こす虫はさまざまな場所に生息しています。室内には蚊、イエダニ、ムカデ、トコジラミ、家の周辺や公園には、毛虫、ネコノミ、蜂、クモ、高原や河原には、ブヨやアブ、山などにはマダニ、ツツガムシ、などがいます。この中で最近、皮膚への被害が増えているのがトコジラミです。トコジラミが増加している原因として、交通機関の発達によって、人の行動範囲がグローバル化した事で、国内で衛生状態のよいホテルや旅館でも、旅行者のスーツケースなどを介して持ち込まれるようになったと考えられています。その宿泊先で刺されたり、鞄に紛れて自宅に持ち込んでしまうと言う事もあるでしょう。このような事が起こらないように、鞄の周囲に“虫よけスプレー”を散布したり、夜間は鞄のふたを必ず閉めるようにしましょう。もし、持ち帰ってしまったら、衣類は乾燥機で30分以上熱処理したり、ビニール袋に持ち物を入れてトコジラミ用の殺虫剤を散布して下さい。危険な虫刺されとして注意が必要なのが、“アナフィラキシー”を引き起こす蜂やムカデです。これらに刺されたら、まずは安全な場所に移動し、安静にして刺された部位を冷やし、可能ならばポイズンリムーバーで毒を吸出しましょう。局所の炎症症状にはステロイドの外用薬を散布し、炎症症状が強い場合にはステロイドの全身投与を行ないます。じんましん、吐き気(嘔吐)、呼吸困難などが出現した場合は、速やかに救急病院を受診しましょう。被害の予防のためにも、外野での作業時は、蜂の巣に注意し、むやみに巣に近づいたり刺激しないようにしましょう。マダニやツツガムシの場合は、病原体を媒介するので要注意です。山などで過ごした日数から数週間後に発疹や発熱が認められれば、すぐに医療機関を受診してください。毛虫(ドクガ類)も暖かくなると被害の多い皮膚炎です。ドクガの幼虫である毛虫には、数十万本以上の微細な毒針毛があり、幼虫の脱皮殻や成虫の尾端部にも付着しています。この毒針毛が人の皮膚に触れ、中の毒成分が皮膚に注入されると、アレルギー反応により、特微的な赤く隆起した皮疹を多数作ります。治療の基本は、ステロイド薬の外用ですが、炎症反応が強い場合は、ステロイド薬の内服を併用する場合があります。対策としては、庭木の手入れの際に被害を受ける事が多いので、ツバキやサザンカに見られる毛虫には注意が必要でしよう。冬でも幼虫の脱皮殻に触れると皮膚炎を生じます。毒針毛に触れてしまったら、粘着テープで皮膚に付着した毒針毛を除去し、石鹸で洗い流しましょう。
植物ではウルシやハゼ、マンゴー、ギンナン、サクラソウ、アロエ、キクなどに触れた後に、湿疹が出現した場合も、ステロイド剤の適用などで、医療機関の受診が必要です。
これからの季節、野外での活動、旅行にはご注意を!
暖冬かと思い日々生活をしていたら、いきなりの爆弾低気圧で、“ビックリポン”ですが、みなさんの皮膚の状態はいかがでしょうか?今回は、ニキビ(尋常性座瘡)についてのお話です。
ニキビの症状
- 面皰(コメド)毛穴に古い角質がつまり角栓ができ、毛穴が閉塞した所に、ホルモンバランスの影響で皮脂の分泌量が増加などし、その皮脂が毛穴にたまって『面皰(コメド)』が形成されます。
皮脂を好み酸素を嫌うアクネ菌にとっては、増殖するのに好都合の場所です。
- 紅色丘疹・膿疱・毛穴の中で増殖したアクネ菌は、炎症を起こす物質を作ります。そして、炎症が起こると、ニキビは赤く丘状に盛り上がって『紅色丘疹』となります。更に時間が経つと、膿がたまり『膿疱』に移行します。
- 硬結・嚢腫・膿疱を放置していると、炎症が拡大し毛穴が破壊されて、皮下に膿の袋、いわゆる『嚢腫』に、さらに硬く盛り上がる『硬結』になります。
ニキビの原因
上記したように、ニキビは毛穴に皮脂がたまってできます。思春期ニキビは、性ホルモンの働きが活発になり、皮脂分泌の亢進によりできますが、20代からの大人のニキビは以下のような原因が考えられます。
- 皮膚のバリア機能の低下
- 間違ったスキンケア
- 不規則な生活
- 月経前やストレスなどのホルモンバランスのみだれ
- 便秘…etc
ニキビの治療
ニキビができたらどうしたらいいか?症状に応じて適切な治療がありますので、自己判断による処置はせず、我々皮膚科医の指示に従いましょう。
ただし、治療の効果が出るまでの期間は、個人差があります。
急性期の治療
面皰が主体の時は、毛穴の閉塞を改善する薬剤が用いられます。
<治療薬剤>
アダパレン(外用薬)
過酸化ベンゾイル(外用薬)
紅色丘疹や膿疱が主体の時は、毛穴の中で増殖したアクネ菌が炎症を起こしているので、アクネ菌の増殖を抑える薬剤や、炎症を抑える薬剤が用いられます。
<治療薬剤>
アダパイン(外用薬)
過酸化ベンゾイル(外用薬)
抗菌剤(外用薬や適宜内服薬)
寛解維持期
目に見えない微小面皰や面皰を抑えることで、紅色丘疹の移行するのを抑えます。
<治療薬剤>
アダパレン(外用薬)
過酸化ベンゾイル(外用薬)
※アダパレンや過酸化ベンゾイルは、刺激感や乾燥等を訴える方が時々みられますので、徐々に外用範囲を広げると良いでしょう。
生活上の注意点
洗顔は余分な皮脂を除去し、皮膚を清潔に保つのに必要であります。我々は1日2回の洗顔料を用いた洗顔を推奨しております。基礎化粧品はノンコメドジェニックまたはハイポコメドジェニックと記載された面皰形成試験を行なっているものが望ましいでしょう。メイクアップのポイントとして、毛穴を塞がないように厚化粧を避けて、ニキビから視線をそらす目的で、リップメイクを強調しましよう。食事については、特別な食事制限がニキビを改善したり、悪化させたりという根拠はありません。ピーナッツやチョコレートなど特定の食べ物でニキビが悪化した経験があるなら避けた方が良いかもしれませんが、常にこれらを避ける必要もないと思います。
1日3回バランスの良い食事を心がけ、間食を極力避けていきましょう。
その他、ニキビをよく触る人がいますが、炎症を拡大させるばかりでなく、面皰形成の誘因なることから、ニキビを不用意に触らないようにしましょう。また、ストレスや睡眠不足を、悪化因子に上げる患者さんは多いと思います。ですから、十分な睡眠をとり、ストレスや疲れをためないよう、趣味や適度な運動、自分なりのリラック法でストレスの少ない生活を送りましょう。
冬将軍到来で、ぼちぼちと寒い日が多くなって参りましたが、みなさまの皮膚の状態はいかがでしょうか?今回は、季節的に増加している質問であります、乳幼児のスキンケアについてのお話です。
乳幼児の皮膚の特徴
乳幼児の皮膚は、新生児期をのぞいて、角質の水分量や皮脂の分泌量は成人より少ないと言われております。また、皮膚が薄く、バリア機能が未熟なため、外からの細菌や異物を容易に侵入させてしまいます。
他に汗腺の密度が高いので、汗をかきやすいとも言えます。
乳幼児に見られる皮膚疾患
- あせも 汗をかきすぎたりすると、汗腺のつまりを起こし、赤い小さな皮疹が出てきます。冬でも、暖房や服の着させすぎなどで起こります。
- 乳児湿疹 赤ちゃんの皮膚は未熟な部分が多いので、ちょっとした環境の変化で炎症が起こりやすいのです。
- おむつかぶれ 排尿や排便後しばらく処置をせずにいると、炎症が出現してきます。また、おむつとの摩擦も炎症の原因になります。
- 乳児寄生菌性紅班 上記と似た症状に、便中のカンジタ菌という真菌に感染して起こります。
- アトピー性皮膚炎 体質的に皮膚のバリア異常のために、異物(アレルゲン)の浸入や機械的刺激により、皮膚に炎症が起こる状態です。この状態が長く続くことがアトピー性皮膚炎の診断基準となります。
乳幼児のスキンケア
皮膚のトラブルを防ぐには、スキンケアが重要です。
基本は、“洗浄”、“保湿”、“紫外線対策”、の三つが基本です。
- 体・顔の洗い方
石鹸は弱酸性低刺激のものをよく泡立てて、素手を使い、手のひらと指の腹できちんと洗う。外遊び等で手足を汚した時は、肌触りのよい素材のタオルを使って洗う。ゴシゴシこすらずやさしくが基本です。
首や脇の下などのしわの部分は、奥までていねいに洗う。
顔も石鹸を使います。よく泡立てれば目にも入りにくいです。すすぎは、ていねいに何度かおこない、すすぎが終わったら、乾いたタオルでこすらずそっと押さえるように水分をふき取る。しわの中の水分は残りやすいので気をつけましょう。石鹸が残ると皮膚を刺激するもとになります。
- 保湿剤で皮膚にうるおいを
入浴後はなるべく早く保湿剤を塗布しましょう。やさしく話しかけながらマッサージするようにやさしく塗り広げます。塗る順番は、顔→お腹→背中→手足がよいでしょう。
保湿剤は、人差し指の指先から第一関節まで(液体ものは1円玉大)の量で大人の手のひら2枚分の面積に塗れる量と言われております。
- 紫外線対策 紫外線は冬でも降り注いでいます。3月頃から増え始め6~7月が最も強くなります。時間帯としては、午前10時~午後2時頃までに1日の半分以上の紫外線が降り注ぐと言われております。 紫外線対策の基本は、帽子をかぶせ、日陰を選んで遊ばせ、日焼け止めをしっかり塗ることかと思います。
日焼け止めの塗り方としては、清潔な皮膚に、子供用の日焼け止めをムラなく(日焼けしやすい額、鼻、首の後ろは念入りに)塗ってください。塗る量の目安としては、顔の場合は、クリームならパール粒1個分、ローションなら1円玉1個分の量を顔に5ヶ所に置いて伸ばします。 手・足など広く塗る場合は、つける場所に直接的につけ、手のひらを使って大きく円を描くように伸ばしましょう。
これらのことが全てでは在りませんが、上記のことを参考にお子さんのスキンケアをおこなってみてください。それでも、皮膚トラブルがある場合は、早めの受診でよい状態に戻しましよう!
すっかり秋になり、朝夕の冷え込みがでてまいりました。そうなると皮膚科の待ち合いも、さみしくなってまいります。忙しかった夏は、ついつい患者さんに専門用語で病気の説明をしてしまい、その節は、大変申し訳ございませんでした。今回は、それに関連して皮膚科の病名由来などについて書こうかと思います。
アトピー
アトピーと言う言葉は、広く知られた言葉で、皮膚科ではアトピー性皮膚炎がホピュラーであります。語源は、ギリシャ語のatopia(異常な)から来ております。
これはa(否定)とtopos(場所)の組み合わせで、本来の場所にない、つまり、“異常”なとか“不思議”なという意味から派生した言葉です。ですから、アトピー性皮膚炎は、つかみ所のない(症状に個人差のある)、治療に苦労する奇妙な病気と言う意味でしょうか?
肝斑
日本語では“かんぱん”と言うより“しみ”と言ったほうがわかりやすいでしょう。30歳~40歳の女性の顔面に左右対称に生じる、褐色斑です。独語ではLeberfieck,肝臓の色に似ているからだそうです。日本語は、これを、ダイレクトに訳したのでしょう。
アフタ
口内などの粘膜円形で扁豆大までの境界鮮明な炎症面で、周囲が赤くなり、表面に白色ないし黄色の偽膜を付着するものであります。原因として機械的刺激(入れ歯等)、ウイルス性やベーチェット病などさまざまです。再発しやすいのが特徴です。
語源は、ギリシア語のaphthai(炎症、潰瘍)からきているようです。これは症状であって、疾患ではないですが繰り返し発症していると、カルテ等には、“再発生アフダ”または“アフタ性口内炎”と書いております。
鶏眼
一般的に“ウオノメ”(魚の目)と呼ばれています。これは独語のHohneraugeの直訳です。足趾間などに生じる圧痛のある角化塊で、中心が隆起しております。この部分は、円錐状に真皮深層に刺入しており、最初は圧迫による不愉快感があり、その後次第に歩行時に激痛が出現します。原因は、足への持続性圧迫による変形、摩擦が考えられます。治療は、軟化および除去です。
胼胝
上記の“ウオノメ”の類似疾患で、“たこ”とよばれております。これは、英語でも独語でもtylosis,、「結び目、こぶ等」を意味するtyloに由来しているようです。好発部位は、手掌、指腹、足底など常に圧迫される場所に、防御機転として起こる角質の増殖です。この増殖した角質は刺入はしないので、鶏眼よりは痛みは少ないかと思います。治療は、軟化および除去、その後は、原因を避ける生活であります。
白癬菌(症)
通称タムシ、水虫の原因菌、真菌(カビ)の一種で、人に感染する糸状菌は10数種が知られておりますが、中でもTricophyton rubrunとTricophyton mentagrophytesとで8割を占めております。いずれもケラチン(各層の主成分の蛋白)分解能を有することで、硬い爪や角質への寄生が可能となっています。
感染する部位や深さなどで、浅在性真菌症と深在性真菌症に分類されます。近年強力な抗真菌剤の出現で治療期間は短縮していますが、糖尿病などの基礎疾患があると難治であり、壊疽の原因になります。
しらくも
頭部白癬tinea capitisの俗称で浅在性白癬で頭部に生じたものを指します。
わが国では古くから小児頭瘡を、『しらくも』と俗称していたようですが、「明治30年頃から頭部断髪性疱疹ないし寄生性匐行疹という病名が使われるようになると、これらは『しらくも』とは別であると考えられていたようです。しかし明治37年に両者を統合して頭部白癬と称するようになりました。
その後、日本では頭部白癬という病名一つを使うようになりました。
アメリカでもtimea capitisとして一つにまとめましたが、これは頭部浅在性白癬とケルスス禿頭(深在性)をあわせた概念であり、わが国の頭部白癬が浅在性のみでケルスス禿頭は含まないところは異なるようです。
現在の治療は抗真菌剤内服でありますが、それ以前は抜毛による治療が主流のようです。
書き出したらきりがないので、今回はこの辺で終わりとさせて頂きます。