コロナウイルスの影響

現在コロナウイルスが県内でも猛威をふるっております。4月9日時点で、愛知県では緊急事態宣言は出ておりませんが、状況によっては急な休診が発生する場合もあります。お薬がなくなりそうな方は早めの受診をおすすめいたします。

アトピー性皮膚炎の新しい治療

アトピー性皮膚炎の治療は、皮膚のバリア機能を補う治療と、炎症を抑える治療の組合せが必要と考えます。バリア機能を改善する治療としては、保湿剤などの外用、炎症を抑える治療としては、ステロイドの内服・外用、免疫抑制剤内服・外用が考えられます。我々皮膚科医は患者さんの状態を理解し、継続して取り組める治療を選択してまいりました。アトピー性皮膚炎の原因はまだ明らかになっておりませんが、皮膚のバリア機能が低下する体質や、アレルギーを起こしやすいアトピー素因が原因のひとつとして考えられています。アトピー性皮膚炎の皮膚では、外からの異物の侵入を防ぐバリア機能が低下し、皮膚への刺激やアレルギーによる皮膚炎を起こしやすくなっています。
皮膚炎による痒みのため、掻破が起こり皮膚を傷つけ、更に炎症がひどくなります。
この時皮膚炎の内部では、Th2細胞という免疫細胞が増えた状態になっています。そして、Th2細胞が産生する『IL-4』と『IL-13』という物質(サイトカイン)が炎症を起こしたり、痒みを誘発したり、皮膚のバリア機能に障害を与えます。
1年半程度前より、全身療法の選択肢のひとつとして、ヂュピクセントという生物学的製剤の使用が可能となりました。デュピクセントは『IL-4』と『IL-13』という物質の働きを直接抑えることで、皮膚の2型炎症反応を抑制する新しいタイプのお薬です。皮膚の内部に起きている炎症反応を抑えることで、かゆみなどの症状や、皮疹などの皮膚症状を改善します。
この治療薬(注射)のメリットは、医師の判断の下、患者さんご自身が注射を行う『自己注射』も可能な事です。メリットとして、通院時間の制約や負担が減り、仕事や旅行などの活動範囲が広がるかと思います。
投与においての注意が必要な方は

  • 妊娠またはその可能性のある方、授乳中の方
  • 高齢の方
  • 喘息などのアレルギー疾患のある方(デュピクセントの投与により、他のアレルギー性疾病が変化する可能性があります。その疾患の主治医と連携しながら治療を進める必要があります。)
  • 生ワクチンを接種する予定の方
  • 寄生虫感染のある方

デュピクセントは投与開始時のみ、2本を皮下注射します。その後は2週間に一回、1本を皮下注射します。

副作用としては、投与後に過敏反応が現れることがあります。次の症状が現れたら、投与を中止し速やかに主治医に相談してください。

ふらつき感、息苦しさ、心拍数の上昇、めまい、嘔気、嘔吐、皮膚のかゆみ赤み、関節痛、発熱など他に注射部位に、発赤、かゆみなどが見られたり、口唇などにヘルプス、目に結膜炎が見られる場合があります。稀でありますが、免疫を抑えるため、寄生虫感染を起こしやすくなる可能性があります。

その他の問題点として新しい治療だけに、治療費が高額な事があります。目安としては、以下の通りです。

ただし、高額治療費制度等の対象となりますので、ご興味のある方はクリニックで時間を取って説明したいと思います。
以下の電話番号でも専任スタッフが、24時間365日いつでもサポートします。
デュピクセント相談室:0120-50-4970
*アトピー性皮膚炎の重症度及び治療歴によっては、投与の対象にならない場合もあります。

赤アザは内服で治療

当クリニックも『いけや皮フ科クリニック』から『おばた駅皮フ科クリニック』に名称変更をして、1ヵ月経ちましたが、今のところ(この原稿を書いている時点で)大きな混乱もなく、みなさまに受け入れられたかと思います。今後も地域の皆さまに、お役に立てるようにがんばりたいと思います。
今回は赤アザの話をしようかと思います。赤アザは、『血管腫』と言われ、皮膚の血管が増殖・拡張してできます。生後より、見られるものがほとんどであります。その形状は、平らなものから隆起したものなど、さまざまであります。代表的なものをあげると、「イチゴ状血管腫」「サーモンパッチ」「ウンナ母斑」「単純性血管腫」などです。今回の話にでる赤アザは、主に「イチゴ状血管腫」になるかと思います。
乳児などに見られる赤アザは、20年ほど前は経過観察、10年前はレーザーなどの外科的な治療が主流でしたが、ここ2~3年は、内服薬で治療する時代になってきたようです。一部の施設(大学病院など)では、すでに始めていた治療ではありますが、現在では保険適用のある薬もあり、これからメジャーになっていくかと思います。
赤アザの自然経過としましては、増殖期、退縮期、消失期に分けられます。
増殖期は、生後2ヵ月までに急速に増大し、生後5ヶ月までにピーク時の80%に達するようです。一般的には病変の消失年齢は3歳頃と言われておりますが、後遺症が残る場合もあります。後遺症としては、表面にでこぼこが残ったり、色が白く抜けたり、シコリやシワ、たるみなどがあります。後遺症の割合は諸説ありますが、25~92.9%と報告自体にばらつきのある状態です。赤アザの消失後に、皮膚のたるみといった後遺症を残さないためにも、腫瘤が増大し皮膚が伸びきってしなう前の早い時期に、治療を開始することが重要です。治療の進歩により、最近では後遺症としての皮膚病変が残るのを軽減することが可能になって来ました。治療に迷われる場合は、なるべく早めに、専門医のいる施設に紹介する必要があると考えます。
専門医への紹介が強く勧められる症例として、以下の場合が考えられます。

  • 生命や機能を脅かす合併症を伴う血管腫
  • 潰瘍を形成している、または可能性の高い血管腫
  • 増殖が急激な血管腫
  • 顔面の広い範囲にある血管腫

その他腫瘤を形成しているものや、露出部にあるものも専門医への紹介を検討すべき症例と考えられます。
治療としては、最初に述べたように、従来はレーザー治療が主体でしたが、新しい治療法として、もともと心臓病などに用いられるプロプラノロールというお薬の内服治療法です。特に顔面、広範囲の症例では、隆起が弱くても、プロプラノロールの早めの治療が必要と考えられています。このお薬の初回投与時や増量時は、安全を考慮して小児科医との連携のもとで、行うことが必要なので、外来管理よりは入院管理になる事が多いようです。
当クリニックでもアザが気になる方、治療を希望される方を、専門医のいる施設に紹介しております。気になる方はご相談ください。

痒みと睡眠について

痒みは、掻破の要求を起こす不快な感覚と定義されています。これは、皮膚固有の感覚であり、皮膚に障害をあたえる物への、防御反応と考えられております。痒みは、いろいろな原因で起こりますが、主に皮膚疾患で起こります。その中で、外来患者さんで多いのが、アトピー性皮膚炎です。痒みが激しいと、仕事や勉強に対する集中力が妨げられたり、不眠になったりします。その期間が長くつづくと、うつ状態になったりし生活の質の低下を招く事になります。このことから、痒みというものは決して軽視してはいけないものです。
痒みを感じて掻破すると皮膚病変は悪化し、さらに痒みが強まります。このような状態を、itch-scratch cycleと呼びます。原因の一つとしては、睡眠前後の中核温の変化です。中核温は眠る前に上昇し、その後下降しはじめ、眠気が生じると、放熱作用により皮膚の血流量が増加し、皮膚温の上昇を招き、痒みが強まると言われています。
また、アトピー性皮膚炎患者さんの睡眠時間の脳波を、健康人と比べると、睡眠効率が低下する、中途覚醒が多いことが知られています。このことにより、睡眠中も掻破行動が多いと予想できます。痒みそのものが、原因で眠れない方もおられますが、睡眠時の掻破行動で、睡眠が妨げられるという方も多いと思えます。
重症のアトピー性皮膚炎患者さんの中には掻破時間が睡眠時間の35%に達する方もおり、睡眠中もitch-scratch cycleが成立していると考えられています。
また、アトピー性皮膚炎患者さんでは、深い睡眠時には少ないものの、浅い睡眠時に掻破が始まり、その掻破が覚醒刺激となり、目を覚ましてしまうと報告されています。
アトピー性皮膚炎患者さんが良い睡眠を得るためには、治療して痒みを軽減することは重要です。アトピー性皮膚炎は、素因に環境因子が加わり発症します。
以前は、アレルギー体質が注目されていましたが、アトピー性皮膚炎患者さんの一部に、セラミドなど天然保湿因子の生成に関して、遺伝的異常が認めたれたことより、最近では皮膚のバリア異常が、もっとも重要な素因と考えられております。皮膚のバリア機能が弱いと水分も失われやすく、乾燥肌になりがちです。アトピー性皮膚炎の治療は抗炎症治療が主体ですが、バリア機能を保護することも大切です。アトピー性皮膚炎患者さんに、ヘパリン類似物質含有製剤、尿素製剤、ワセリンなどの保湿剤を塗布すると、角質の水分量が増加し、痒みの度合いが軽減したとの報告もあります。この結果は、角質の水分量が増加したことで、痒みが軽減したことを示唆しています。つまり、保湿剤を使用することの重要性を示唆しております。保湿には、ヘパリン類似物質、尿素軟膏などの湿潤剤や、ワセリンのような閉塞剤といったものを我々医師は処方することが多いのですが、市販の保湿剤でもある程度の効果はあると考えます。保湿剤を約20日間使用したことで、睡眠の質が向上したデータもあります。冬の時期に保湿をするということは、アトピー性皮膚炎だけでなく、老人性乾皮症の患者さんにも有用なのです。
冬の時期は、乾燥を感じたら、痒くなる前に(良い睡眠を得るためにも!)保湿をしましょう。
*2月より当クリニックは、ICT化を進めていきます。その為、クリニックのパソコンシステムの変更により、待ち時間が発生する可能性があります。あらかじめご了承下さい。
皆様のご協力をお願い致します。

『ダニ』に関する誤解

ダニというと一般の人はどのような印象があるのだろうか?診察をしていると患者さんが誤解していると思うことがあります。特に疥癬とイエダニ刺症は誤解されていると思います。
疥癬とは、ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生し、虫体や排泄物などに対するアレルギー反応により、掻痒のある皮疹が生じる感染症であります。感染経路は、肌と肌の直接接触が主体であります。例えば、病院や高齢者施設における介護行為などでの接蝕、保健所での雑魚寝、性行為などがあげられます。
ヒゼンダニの体長は0.2~0.4mmで、雌は皮膚に入り込むと長さ数mm~1cm程度のトンネルを作り、そこで産卵します。卵から孵化して、約2週間で成長になります。
疥癬は人から離れると、死滅するといわれていますが、感染した患者の寝具等を介して看護者に感染することもあります。疥癬トンネルは、手指間や手首に見られます。
感染した場合、約1ヶ月の潜伏期間を経て、腋や臍の周辺、陰部などに痒みのある皮疹が出現し、布団に入って温まると痒みが強くなります。稀に、高齢者や免疫低下者では重症型疥癬(角化型疥癬)になることがあり、集団発生の原因になります。
一方、イエダニは体長0.7mmで、主にドブネヅミに寄生しています。ネズミが生息している一戸建ての古い家屋ねどでの被害が多いですが、ネズミの多い倉庫や食堂、学校などでも被害に遭うことがあります。被害は、6月~9月に多いと言われています。
イエダニは夜間就寝中にネズミの巣から室内に侵入し、寝具の中にもぐり込んで、衣服に覆われている柔らかい皮膚を好んで吸血します。その為、顔などの露出部より、皮疹は下腹部や腋の下、腰や大腿内部に多いのです。
イエダニによって生じる皮膚炎は、ダニ由来の唾液腺物質によるアレルギー反応と考えられています。症状は個人差が大きく、多くの場合は遅延型アレルギー反応として現れるので、刺された翌日、あるいは二日後に掻痒のある紅色皮疹が出現します。同じ部屋で寝ていても、皮疹の出る人と出ない人がいるのは、個々の体質の違いと言えるでしょう。
治療に関しても、疥癬とイエダニ刺症は大きく違います。イエダニは、虫体の確認が困難なので、原因不明の虫刺症として診断されることが多く、皮疹もいわゆる虫刺将の皮疹なので、ステロイドの外用で多くは改善します。しかし、駆除をしないと皮疹は再発しやすいのです。バルサンなどの薫煙型殺虫剤による効果は、イエダニ類の発生が室内であるため、あまり無いと言われます。
片や疥癬はステロイドの外用で増悪してしまいます。ひと昔前の疥癬の治療は有効な保険適用薬がなく、イオウ含有入浴剤、イオウ外用薬、クロタミトンクリーム、安息香酸ベンジル、殺虫剤であるГ―BHCと言ったものしかなかったのです。しかし、2006年から駆虫薬のイベルメクチンの内服が、さらに、2014年から5%フェノトリンローションの外用が、疥癬の治療薬として保険適用となりました。
具体的治療法は、フエノトリンの外用は頚部から下の皮膚に塗布し、約12時間後にシャワーで洗浄、これを週1回、2回施工、イベルメクチンの内服は体重15kgあたり1錠(0.3㎎)を週1回、必要があれば、翌週もう1回内服なっております。基本は内服薬か外用薬のいずれかを選択しますが、寄生するヒゼンダニが多い重症例(角化型疥癬)に関しては、2剤の併用(同時にではなく、内服してその後外用)を考慮する事があります。