すっかり秋になり、朝夕の冷え込みがでてまいりました。そうなると皮膚科の待ち合いも、さみしくなってまいります。忙しかった夏は、ついつい患者さんに専門用語で病気の説明をしてしまい、その節は、大変申し訳ございませんでした。今回は、それに関連して皮膚科の病名由来などについて書こうかと思います。
アトピー
アトピーと言う言葉は、広く知られた言葉で、皮膚科ではアトピー性皮膚炎がホピュラーであります。語源は、ギリシャ語のatopia(異常な)から来ております。
これはa(否定)とtopos(場所)の組み合わせで、本来の場所にない、つまり、“異常”なとか“不思議”なという意味から派生した言葉です。ですから、アトピー性皮膚炎は、つかみ所のない(症状に個人差のある)、治療に苦労する奇妙な病気と言う意味でしょうか?
肝斑
日本語では“かんぱん”と言うより“しみ”と言ったほうがわかりやすいでしょう。30歳~40歳の女性の顔面に左右対称に生じる、褐色斑です。独語ではLeberfieck,肝臓の色に似ているからだそうです。日本語は、これを、ダイレクトに訳したのでしょう。
アフタ
口内などの粘膜円形で扁豆大までの境界鮮明な炎症面で、周囲が赤くなり、表面に白色ないし黄色の偽膜を付着するものであります。原因として機械的刺激(入れ歯等)、ウイルス性やベーチェット病などさまざまです。再発しやすいのが特徴です。
語源は、ギリシア語のaphthai(炎症、潰瘍)からきているようです。これは症状であって、疾患ではないですが繰り返し発症していると、カルテ等には、“再発生アフダ”または“アフタ性口内炎”と書いております。
鶏眼
一般的に“ウオノメ”(魚の目)と呼ばれています。これは独語のHohneraugeの直訳です。足趾間などに生じる圧痛のある角化塊で、中心が隆起しております。この部分は、円錐状に真皮深層に刺入しており、最初は圧迫による不愉快感があり、その後次第に歩行時に激痛が出現します。原因は、足への持続性圧迫による変形、摩擦が考えられます。治療は、軟化および除去です。
胼胝
上記の“ウオノメ”の類似疾患で、“たこ”とよばれております。これは、英語でも独語でもtylosis,、「結び目、こぶ等」を意味するtyloに由来しているようです。好発部位は、手掌、指腹、足底など常に圧迫される場所に、防御機転として起こる角質の増殖です。この増殖した角質は刺入はしないので、鶏眼よりは痛みは少ないかと思います。治療は、軟化および除去、その後は、原因を避ける生活であります。
白癬菌(症)
通称タムシ、水虫の原因菌、真菌(カビ)の一種で、人に感染する糸状菌は10数種が知られておりますが、中でもTricophyton rubrunとTricophyton mentagrophytesとで8割を占めております。いずれもケラチン(各層の主成分の蛋白)分解能を有することで、硬い爪や角質への寄生が可能となっています。
感染する部位や深さなどで、浅在性真菌症と深在性真菌症に分類されます。近年強力な抗真菌剤の出現で治療期間は短縮していますが、糖尿病などの基礎疾患があると難治であり、壊疽の原因になります。
しらくも
頭部白癬tinea capitisの俗称で浅在性白癬で頭部に生じたものを指します。
わが国では古くから小児頭瘡を、『しらくも』と俗称していたようですが、「明治30年頃から頭部断髪性疱疹ないし寄生性匐行疹という病名が使われるようになると、これらは『しらくも』とは別であると考えられていたようです。しかし明治37年に両者を統合して頭部白癬と称するようになりました。
その後、日本では頭部白癬という病名一つを使うようになりました。
アメリカでもtimea capitisとして一つにまとめましたが、これは頭部浅在性白癬とケルスス禿頭(深在性)をあわせた概念であり、わが国の頭部白癬が浅在性のみでケルスス禿頭は含まないところは異なるようです。
現在の治療は抗真菌剤内服でありますが、それ以前は抜毛による治療が主流のようです。
書き出したらきりがないので、今回はこの辺で終わりとさせて頂きます。