ダニというと一般の人はどのような印象があるのだろうか?診察をしていると患者さんが誤解していると思うことがあります。特に疥癬とイエダニ刺症は誤解されていると思います。
疥癬とは、ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生し、虫体や排泄物などに対するアレルギー反応により、掻痒のある皮疹が生じる感染症であります。感染経路は、肌と肌の直接接触が主体であります。例えば、病院や高齢者施設における介護行為などでの接蝕、保健所での雑魚寝、性行為などがあげられます。
ヒゼンダニの体長は0.2~0.4mmで、雌は皮膚に入り込むと長さ数mm~1cm程度のトンネルを作り、そこで産卵します。卵から孵化して、約2週間で成長になります。
疥癬は人から離れると、死滅するといわれていますが、感染した患者の寝具等を介して看護者に感染することもあります。疥癬トンネルは、手指間や手首に見られます。
感染した場合、約1ヶ月の潜伏期間を経て、腋や臍の周辺、陰部などに痒みのある皮疹が出現し、布団に入って温まると痒みが強くなります。稀に、高齢者や免疫低下者では重症型疥癬(角化型疥癬)になることがあり、集団発生の原因になります。
一方、イエダニは体長0.7mmで、主にドブネヅミに寄生しています。ネズミが生息している一戸建ての古い家屋ねどでの被害が多いですが、ネズミの多い倉庫や食堂、学校などでも被害に遭うことがあります。被害は、6月~9月に多いと言われています。
イエダニは夜間就寝中にネズミの巣から室内に侵入し、寝具の中にもぐり込んで、衣服に覆われている柔らかい皮膚を好んで吸血します。その為、顔などの露出部より、皮疹は下腹部や腋の下、腰や大腿内部に多いのです。
イエダニによって生じる皮膚炎は、ダニ由来の唾液腺物質によるアレルギー反応と考えられています。症状は個人差が大きく、多くの場合は遅延型アレルギー反応として現れるので、刺された翌日、あるいは二日後に掻痒のある紅色皮疹が出現します。同じ部屋で寝ていても、皮疹の出る人と出ない人がいるのは、個々の体質の違いと言えるでしょう。
治療に関しても、疥癬とイエダニ刺症は大きく違います。イエダニは、虫体の確認が困難なので、原因不明の虫刺症として診断されることが多く、皮疹もいわゆる虫刺将の皮疹なので、ステロイドの外用で多くは改善します。しかし、駆除をしないと皮疹は再発しやすいのです。バルサンなどの薫煙型殺虫剤による効果は、イエダニ類の発生が室内であるため、あまり無いと言われます。
片や疥癬はステロイドの外用で増悪してしまいます。ひと昔前の疥癬の治療は有効な保険適用薬がなく、イオウ含有入浴剤、イオウ外用薬、クロタミトンクリーム、安息香酸ベンジル、殺虫剤であるГ―BHCと言ったものしかなかったのです。しかし、2006年から駆虫薬のイベルメクチンの内服が、さらに、2014年から5%フェノトリンローションの外用が、疥癬の治療薬として保険適用となりました。
具体的治療法は、フエノトリンの外用は頚部から下の皮膚に塗布し、約12時間後にシャワーで洗浄、これを週1回、2回施工、イベルメクチンの内服は体重15kgあたり1錠(0.3㎎)を週1回、必要があれば、翌週もう1回内服なっております。基本は内服薬か外用薬のいずれかを選択しますが、寄生するヒゼンダニが多い重症例(角化型疥癬)に関しては、2剤の併用(同時にではなく、内服してその後外用)を考慮する事があります。
虫刺され
“マダニ” “蚊”にご注意
春から秋にかけてキャンプ、畑仕事など山や草むらでの活動が多くなる季節です。そういった野外活動の際は、“マダニ”に注意しましょう。
野山等に生息する“マダニ”に咬まれることで、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ダニ媒介脳炎、日本紅班熱、ツツガムシ病、ライム病などに感染することがあります。“マダニ”に咬まれない為にも以下の点に注意しましょう。
●肌の露出を少なくする(帽子、手袋を着用し、首にはタオルを巻く)
●長袖・長ズボン・登山用スパッツ等を着用する(シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中)
●足を完全に覆う靴を履く(サンダル等は避ける)
●明るい色の服を着用し(マダニを目視で確認しやすくするため)作業に着用した服等は、直接家の中に持ちこまないようにし、野外活動後は入浴を心がけ、“マダニ”に咬まれていないか確認しましょう。(特に、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部は要注意です) もし“マダニ”に咬まれた時の対処法(“マダニ”は吸血前、約0.5cm程度ですが吸血後は1.5cm程度に増大)は以下の通りです。
●無理に引き抜こうとせず、医療機関(皮膚科等)で処置をしてもらいましょう。
●“マダニ”に咬まれた後は、数週間程度は体調の変化に注意が必要です。発熱等の症状がある場合は医療機関で診察が必要です。 (その時医師に伝えることとして、野外活動の日付、場所、発症前の行動)
“マダニ”以外で季節的に用心が必要なのが“蚊”です。特にヒトスジシマカです。(ヒトスジシマカ:背中に1本の白い線とW字状の模様がある、4.5ミリ程の大きさで、5月中旬から10月下旬ころに活動します。雑木林や竹木林などで繁殖し、最近は藪・墓地・公園などにも出現。特に日中に吸血活動をします。活動範囲は50~100メートル程度です。
この“蚊”はデング熱の原因ウイルスとなるデングウイルスを持っている可能性があります。デング熱は人から人へは感染しませんが、デング熱に感染した人の血を吸った“蚊”(日本ではヒトスジシマカ)の体内でウイルスが増殖し、その“蚊”がまた他の人を吸血することで感染が拡大していきます。感染してもすべての人に症状がでるわけではありませんが、高熱や関節痛、目の奥が痛くなるといった症状が1週間から2週間ほど続きます。
冬は“蚊”が減るのでデング熱の発生も収まりますが、翌年また流行する可能性があるので、いつでも“蚊”に刺されないよう注意する、そんな習慣を身につけることが大切です。
皮膚炎を起こす虫や植物
気候も暖かくなり、また今年も桜の季節になりました。みなさまの皮膚の状態はいかがでしょうか?今回は、暖かくなると増える、虫や植物による皮膚炎トラブルのお話です。
皮膚炎を引き起こす虫はさまざまな場所に生息しています。室内には蚊、イエダニ、ムカデ、トコジラミ、家の周辺や公園には、毛虫、ネコノミ、蜂、クモ、高原や河原には、ブヨやアブ、山などにはマダニ、ツツガムシ、などがいます。この中で最近、皮膚への被害が増えているのがトコジラミです。トコジラミが増加している原因として、交通機関の発達によって、人の行動範囲がグローバル化した事で、国内で衛生状態のよいホテルや旅館でも、旅行者のスーツケースなどを介して持ち込まれるようになったと考えられています。その宿泊先で刺されたり、鞄に紛れて自宅に持ち込んでしまうと言う事もあるでしょう。このような事が起こらないように、鞄の周囲に“虫よけスプレー”を散布したり、夜間は鞄のふたを必ず閉めるようにしましょう。もし、持ち帰ってしまったら、衣類は乾燥機で30分以上熱処理したり、ビニール袋に持ち物を入れてトコジラミ用の殺虫剤を散布して下さい。危険な虫刺されとして注意が必要なのが、“アナフィラキシー”を引き起こす蜂やムカデです。これらに刺されたら、まずは安全な場所に移動し、安静にして刺された部位を冷やし、可能ならばポイズンリムーバーで毒を吸出しましょう。局所の炎症症状にはステロイドの外用薬を散布し、炎症症状が強い場合にはステロイドの全身投与を行ないます。じんましん、吐き気(嘔吐)、呼吸困難などが出現した場合は、速やかに救急病院を受診しましょう。被害の予防のためにも、外野での作業時は、蜂の巣に注意し、むやみに巣に近づいたり刺激しないようにしましょう。マダニやツツガムシの場合は、病原体を媒介するので要注意です。山などで過ごした日数から数週間後に発疹や発熱が認められれば、すぐに医療機関を受診してください。毛虫(ドクガ類)も暖かくなると被害の多い皮膚炎です。ドクガの幼虫である毛虫には、数十万本以上の微細な毒針毛があり、幼虫の脱皮殻や成虫の尾端部にも付着しています。この毒針毛が人の皮膚に触れ、中の毒成分が皮膚に注入されると、アレルギー反応により、特微的な赤く隆起した皮疹を多数作ります。治療の基本は、ステロイド薬の外用ですが、炎症反応が強い場合は、ステロイド薬の内服を併用する場合があります。対策としては、庭木の手入れの際に被害を受ける事が多いので、ツバキやサザンカに見られる毛虫には注意が必要でしよう。冬でも幼虫の脱皮殻に触れると皮膚炎を生じます。毒針毛に触れてしまったら、粘着テープで皮膚に付着した毒針毛を除去し、石鹸で洗い流しましょう。
植物ではウルシやハゼ、マンゴー、ギンナン、サクラソウ、アロエ、キクなどに触れた後に、湿疹が出現した場合も、ステロイド剤の適用などで、医療機関の受診が必要です。
これからの季節、野外での活動、旅行にはご注意を!
たかが蚊、されど蚊!?
いよいよ梅雨も明け、夏本番(子供達にとってはうれしい夏休み!)となりました。
今回は、昨年ニュースになりました、デング熱について話をしたいと思います。
デング熱(dengue fever)は、熱帯・亜熱帯とくに東南アジアの流行病言われていましたが、昨年、東京の代々木公園を中心に69年ぶりに国内での感染例が報告されました。その後、皆さんご承知の様に、全国各地で発症が確認され、社会問題に発展いたしました。
デング熱とは、教科書的にはネッタイシマカ(日本ではヒトスジシマカ)にさされて2~15日で突然の発熱と共に全身の倦怠感、関節の痛みとリンパ節の腫脹、胃腸障害、目の奥が痛くなったり、まぶしさを感じたりします。
発疹に関しては、発症初期は、びまん性に赤くなったり・小丘疹(皮膚表面より限局性に類隆起)が見られることもあり、後半には、麻疹(はしか)様や溶連菌感染時に見られる皮疹を呈することもあるようです。ですから、医師の間でも、麻疹や溶連菌感染症との区別に難渋いたします。これらの皮疹は、デングウイルスによるアレルギー反応と考えられています。
デングウイルスには4つの血清型(1型・2型・3型・4型)があります。昨年代々木公園などで確認されたのは1型のようです。これは、アジアで流行しているものと同じでした。小児では発熱に加え、出血傾向や肝障害を合併するデング出血熱と呼ばれる状態になることもあります。このデング出血熱の重症化は、2度目の感染が異なる血清型であったり、あるいはデング熱に対する免疫を持った母体から、出生した乳児の初感染の場合などで起こりやすいと報告されています。つまり、その感染したウイルスの血清型に対しては終生免疫を獲得しますが、他の血清型ではデング熱を発症します。
現時点で、デング熱に対して得意的な治療法はありません。個々の症状に対して対症療法を行なうのみです。解熱剤を使う場合、アスピリンを服用すると、デング熱の重症化に拍車をかけることになりますので、自己判断で解熱剤を内服せず、医療機関を受診のうえ、医師の処方したアセトアミノフエンを内服しましょう。アセトアミノフエンは副作用の誘導が少ないとされています。ワクチンは、年内の実用化をめざしているようです。
予防法ですが、我々のできることは、蚊に刺されないようにするしかないようです。野外で作業をすると木などは、肌を露出しない長袖のシャツや長ズボンの着用、虫よけスプレーや蚊取り線香などを使うことを心がけましょう。
また、蚊は色の濃いものに近づくようです、白や薄い色の服は更に効果的と思われます。
以上の事をふまえて、他の害虫にも気をつけて、楽しい夏を過ごしましよう。