脱毛症にもJAK阻害剤

近年リウマチなどの自己免疫に関わる疾患に対して、投与されてきた生物学的製剤や、JAK阻害剤ですが、皮膚科領域では主に、乾癬やアトピー性皮膚炎に使用されてきました。最近では円形脱毛症にも、保険適応が拡大された薬があります。
その薬の名前はオルミエントです。

円形脱毛症は主にストレスなどで起こると言われており、直接生死に関わる病気ではありませんが、患者さん本人にとっては、「これ以上髪の毛が抜けるのでは?」「髪の毛が再び生えてくるか不安」など悩みは尽きないと思います。

円形脱毛症が発症するメカニズムですが、ストレスや基礎疾患などなんらかの誘因により、毛を作る工場である毛根へ、免疫細胞(サイトカイン)が攻撃をしてしまいます。その攻撃により、毛の成長が阻害されて、毛が抜けてしまいます。つまり、円形脱毛症は、アトピー性皮膚炎などと同様の自己免疫疾患に位置づけられます。

円形脱毛症の治療には、大きく分けて3種類があります。

  1. 外用療法 抗炎症作用のあるステロイド外用剤を塗る治療や、血行促進作用のある外用剤を塗る治療です。
    特殊な外用療法として、かぶれを起こす物質を塗る治療法もあります。
  2. 内服療法 抗アレルギー作用のある薬を内服する治療法、抗炎症作用のあるステロイド内服薬を内服する治療法です。
  3. 注射療法 ステロイド注射薬を直接患部に注射する治療法、または短期間に大量のステロイド注射薬を点滴する治療法です。

他にイボの治療に使う液体窒素を患部にあてる治療法や、紫外線照療法などもあります。
今回、ご紹介するJAK阻害剤であるオルミエントは、内服治療法に分類されます。

オルミエントは、臨床試験において、薬の効果と安全性が確認された内服薬です。我が国では、すでに既存治薬で効果不十分なアトピー性皮膚炎や、関節リウマチの治療薬として使われております。
オルミエントは、JAK(ジャック)阻害薬と呼ばれる内服薬に分類され、円形脱毛症の発症に関与するサイトカインの働きを抑えることで、免疫細胞による毛根への攻撃を抑えます。

しかし誰にでも投与できる内服薬ではありません。以下の方は服用禁忌です。

  1. オルミエントを過去に服用してアレルギー反応を起した方
  2. 重篤な感染症にかかっている方
  3. 結核の方
  4. 重篤な肝機能障害の方
  5. 妊娠、またはその可能性のある方
  6. 血液中の好中球、リンパ球、ヘモグロビン値に異常がある方

また、以下の方は服用に注意が必要な方です。

  1. ヘルペスウイルス感染が疑われる方
  2. B型肝炎ウイルス感染が疑われる方
  3. 脂質異常症の疑いのある方
  4. 生ワクチンを接種予定の方
  5. 高齢の方

オルミエント服用開始前には、問診や血液検査、レントゲン検査にて上記に該当しないか確認を致します。
投薬中も定期的に血液検査やレントゲン検査を行ってまいります。

治療開始前に患者さんに知っておいていただきたい事は、自己負担額の問題かと思います。
例として、オルミエント4mgを4週間処方した場合、3割負担の方で4万4270円、1割負担の方で1万4760円かかります。
年齢や所得区分によっては、高額療養費制度の対象になります。

なかなかクリニックレベルではハードルの高い薬ですが、脱毛症でお悩みの方は、我々皮膚科医にご相談ください。