痒みと睡眠について

痒みは、掻破の要求を起こす不快な感覚と定義されています。これは、皮膚固有の感覚であり、皮膚に障害をあたえる物への、防御反応と考えられております。痒みは、いろいろな原因で起こりますが、主に皮膚疾患で起こります。その中で、外来患者さんで多いのが、アトピー性皮膚炎です。痒みが激しいと、仕事や勉強に対する集中力が妨げられたり、不眠になったりします。その期間が長くつづくと、うつ状態になったりし生活の質の低下を招く事になります。このことから、痒みというものは決して軽視してはいけないものです。
痒みを感じて掻破すると皮膚病変は悪化し、さらに痒みが強まります。このような状態を、itch-scratch cycleと呼びます。原因の一つとしては、睡眠前後の中核温の変化です。中核温は眠る前に上昇し、その後下降しはじめ、眠気が生じると、放熱作用により皮膚の血流量が増加し、皮膚温の上昇を招き、痒みが強まると言われています。
また、アトピー性皮膚炎患者さんの睡眠時間の脳波を、健康人と比べると、睡眠効率が低下する、中途覚醒が多いことが知られています。このことにより、睡眠中も掻破行動が多いと予想できます。痒みそのものが、原因で眠れない方もおられますが、睡眠時の掻破行動で、睡眠が妨げられるという方も多いと思えます。
重症のアトピー性皮膚炎患者さんの中には掻破時間が睡眠時間の35%に達する方もおり、睡眠中もitch-scratch cycleが成立していると考えられています。
また、アトピー性皮膚炎患者さんでは、深い睡眠時には少ないものの、浅い睡眠時に掻破が始まり、その掻破が覚醒刺激となり、目を覚ましてしまうと報告されています。
アトピー性皮膚炎患者さんが良い睡眠を得るためには、治療して痒みを軽減することは重要です。アトピー性皮膚炎は、素因に環境因子が加わり発症します。
以前は、アレルギー体質が注目されていましたが、アトピー性皮膚炎患者さんの一部に、セラミドなど天然保湿因子の生成に関して、遺伝的異常が認めたれたことより、最近では皮膚のバリア異常が、もっとも重要な素因と考えられております。皮膚のバリア機能が弱いと水分も失われやすく、乾燥肌になりがちです。アトピー性皮膚炎の治療は抗炎症治療が主体ですが、バリア機能を保護することも大切です。アトピー性皮膚炎患者さんに、ヘパリン類似物質含有製剤、尿素製剤、ワセリンなどの保湿剤を塗布すると、角質の水分量が増加し、痒みの度合いが軽減したとの報告もあります。この結果は、角質の水分量が増加したことで、痒みが軽減したことを示唆しています。つまり、保湿剤を使用することの重要性を示唆しております。保湿には、ヘパリン類似物質、尿素軟膏などの湿潤剤や、ワセリンのような閉塞剤といったものを我々医師は処方することが多いのですが、市販の保湿剤でもある程度の効果はあると考えます。保湿剤を約20日間使用したことで、睡眠の質が向上したデータもあります。冬の時期に保湿をするということは、アトピー性皮膚炎だけでなく、老人性乾皮症の患者さんにも有用なのです。
冬の時期は、乾燥を感じたら、痒くなる前に(良い睡眠を得るためにも!)保湿をしましょう。
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